「コオロギの食用は危険」の噂。発がん性などの根拠を示す論文は?

コオロギの食用は危険なのか

コオロギの食用は発がん性があるから危険!」などの噂が、一部で流れています。

悪い噂を聞くと、どうしても不安になってしまいますよね。

今回は、食用コオロギが危険だとする説にはどんなものがあるか、また、その根拠となる論文の有無などについて、しつこく調べてみました。

「わからないから不安がどんどん膨らんでいく……」

「デマだとは知らないで、みんなに言ってしまった」

そんな事態を防ぐためにも、この記事で噂の中身を確認してください。




コオロギには発がん性がある?

コオロギに発がん性?

科学的根拠を示す論文は確認できない

「コオロギに発がん性がある」という噂を裏づける論文の存在は、確認できません。

「コオロギの外骨格に多く含まれるキチン質に発がん性がある」という情報も流れていますが、それを証明する科学的なデータが添えられた文章も見つかりません。

今後、新しい有益な情報が出てきた場合は、加筆していきます。

私たちのまわりは発がん物質だらけ

付け加えておくと、広い意味ではどんな食べ物にもがんを引き起こすリスクがあります。

内閣府の食品安全委員会委員、廣瀬雅雄氏は、『食品に存在する発がん物質について』という記事で、次のように述べています。

実際、食品中にはどの様な発がん物質が含まれているのであろうか? 食品の中には植物の構成成分、加熱や調理過程等で生成される物質、さらに食品添加物や農薬、動物用医薬品、かび毒、容器類からの溶出物、土壌や飲料水中の成分など種々の物質が含まれており、これらすべての中に発がん物質が存在している可能性を否定できない。

(引用元:https://www.fsc.go.jp/sonota/13gou_8.pdf

これをふまえるなら、コオロギにも、私たちが日々食べているアレにもコレにも、発がん物質が含まれている可能性があるといえます。

どこに焦点を当ててどう考えるのか。私たちのスタンスによって、この噂に対する解釈も変わってきますね。

漢方はコオロギ食を妊婦に禁じている?

コオロギは妊婦はダメ?

漢方医学大事典には記載あり

「漢方の世界で、コオロギは妊婦に禁忌とされている。食べてはいけない」というウワサも流れています。

これは、東洋医学の知見がないと判断できない問題です。また、この情報の根拠とされる文献にも不明な点があります。

「コオロギは妊婦にとって危険」という話は、元々はTwitterで発信された情報です。

根拠として、「『漢方医学大事典』(雄渾社)のコオロギの項目に『微毒』『妊婦は禁忌』と書かれていること」が挙げられています。その部分の画像も添付されています。

出典とされる本草綱目には記載なし

しかし、別の人の指摘によれば、事典のその記述の出典とされる中国の薬学百科全書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の原書の中には、「微毒」や「妊婦は禁忌」にあたる記述がないというのです。

最初にツイートした人がこれにリプライをつけ、「妊婦は禁忌」については、「翻訳の段階で意訳されている可能性あり」とも書いています。

このように、「コオロギは微毒、妊婦には禁忌」という説に関しては、その記載がある本と、出典元の本の記述が一致していないという点で、疑問が残るといわざるをえません。

また、この説を変形させて「コオロギを食べると不妊になる」と言っている人もいます。

しかし「妊婦は禁忌」と「不妊になる」はそもそも意味が違います。「不妊」と言っている人が根拠となるデータを示している例も見つかりません。

でも、「こうした噂があること自体が心配」と感じる人の気持ちもわかります。妊婦さんや妊娠している可能性のある人は、心配なら食べないことです。

コオロギの食用はアレルギーを起こす?

コオロギの食用はアレルギーを起こす?

コオロギにアレルギーの原因物質が含まれているのは事実です。

コオロギに含まれるタンパク質の一種やキチン質に、アレルギーを起こす可能性があることがわかっています。これらはエビやカニなどの甲殻類にあるものと近い成分です。

例を挙げると、北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司氏は次のように述べています。

コオロギのタンパク質への一次感作を引き起こす可能性があり、甲殻類、ダニ、軟体動物にアレルギーのある患者ではアレルギー反応を引き起こす可能性があると指摘されています。飼料に由来するアレルゲンがこのコオロギ新規食品に含まれる可能性も指摘されています。

(株式会社バイオ・シータ 食品衛生コラム 第91話「昆虫食の安全性確保」より引用)

これによれば、コオロギ食は、甲殻類に限らず、ダニや、イカやタコなどの軟体動物にアレルギーのある人にも適さないことになります。

アレルギーの危険性は、食用昆虫全般に当てはまります。くわしくは「昆虫食のデメリット」の記事で確認してください。

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食用コオロギはプリン体が多いから危険?

食用コオロギはプリン体が多いから危険?

「コオロギにはプリン体が多い」とする論文は存在しています。

National Library of Medicine(National Center for Biotechnology Information)に掲載された論文の要約(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23633284/)には、次のような結論が示されています。

「コオロギはタンパク質とプリン体が豊富であり、高尿酸血症や痛風のある人にはお勧めできません」

心配な人は、コオロギ食は控えたほうがいいでしょう。

また、プリン体から受ける影響は、食べる量によっても変わります。

そもそもプリン体とは、細胞の核に存在する核酸の主成分で、あらゆる生物の細胞内に含まれているもの。肉、魚、野菜、穀物など、ほとんどの食品の中に旨味成分として存在しています。

トータルの食事量が多ければ、それだけ多くのプリン体を摂取することになります。痛風を防ぎたいなら、これも頭に入れておくことが必要です。

内閣府の食品安全委員会がコオロギの危険性を指摘?

食品安全委員会がコオロギの危険性を

「内閣府の食品安全委員会が、2018年にコオロギの危険性を指摘していた。だからコオロギは危ない」「食品安全委員会が危険と言っているのに、コオロギ食を推奨するのは問題だ」と主張する人たちもいます。これは本当なのでしょうか?

調べてみると、この主張にはいろいろと不正確な点があります。

どこに問題があるのか、一つひとつ順を追って確認していきましょう。

1、「欧州食品安全機関が発表したプロファイル」を紹介した文書である

まず、食品安全委員会が、2018年、ヨーロッパイエコオロギのリスクプロファイル(すべての重要なリスクを洗い出したもの)についての情報を、サイトに載せたのは事実です。

出典:食品安全関係情報詳細 (https://www.fsc.go.jp/)

しかし、文書を最初から読むと、これは欧州食品安全機関(EFSA)が作成したリスクプロファイルの内容を、そのまま紹介しているものだとわかります。

要するに、リスクについて懸念を示しているのはEFSAで、ここでは内閣府の食品安全委員会の見解は示されていません。

EFSAのオリジナルの文書は、こちらで読むことができます。

Novel foods: a risk profile for the house cricket (Acheta domesticus) - - 2018 - EFSA Journal - Wiley Online Library

2、「他の食品と共通したリスク」が挙げられている

そして、この情報を広めている人たちが「コオロギの危険性の根拠」としているのが、上記の文書の次の部分です。

(前略)リスクプロファイルにおいて以下に挙げる相当な懸念が特定された。

(1)総計して、好気性細菌数が高い。

(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。

(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。

(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。

(食品安全関係情報詳細 (https://www.fsc.go.jp/)より引用)

この情報をどう解釈するかは、昆虫食の専門会社TAKEOのサイトに書かれた見解が参考になります。その主旨をまとめると以下の通りです。

  • こうしたリスクはコオロギに限らずすべての食品にある
  • 懸念の(1)と(2)は適切な処理によって安全なレベルに低減できる
  • (3)はアレルギーを持つ人が摂取を控えることで対応可能
  • (4)はエサの影響で確かにリスクがあるが、他の食品と比べて特別高いわけではない

これについては、食品に関する知識がないとわからない点も多いです。(1)~(4)の文言を読んで、実際よりも深刻に受け取る人が出てくるのは仕方ないかもしれません。

ただ、「コオロギだけにこのリスクがあるわけではない」ことは、認識しておくべきでしょう。

3、コオロギは2022年に新規食品として認められている

また、「上記の資料は2018年に発表されたもの」という点にも注意が必要です。

2022年、ヨーロッパイエコオロギはEU認定の「新規食品」となっています。認定されたということは、リスク低減の対策がとられた結果、安全性が評価されたことを意味します。

上記1~3の理由から、この文書を引き合いに出して、「食品安全委員会がコオロギに懸念を示しているから危険である」とするのは、無理があるといえます。

まとめ

コオロギ食は危険だと主張する、いろいろな噂を検証してみました。

「コオロギの発がん性」「微毒、妊婦に禁忌」「食品安全委員会が懸念」などの噂に関しては、根拠が不明な部分や、事実誤認のまま広められている部分があるので要注意です。

一方で、「コオロギにはアレルギーの原因物質がある」「コオロギはプリン体を豊富に含んでいる」というのは、科学的な裏づけのある情報です。「それなら自分には適さない」と思う人は、控えたほうがよいでしょう。

その情報は、断言できるものなのか。責任をもって人に伝えられることなのか。それを確かめるには、必ず複数の情報源をあたり、根拠や反対意見も調べてみることが必要です。

本サイトの記事も、できるかぎり多くの情報源、データと照らし合わせながら作っています。

もし、ここに載せた情報に関して、新しい科学的なデータなどがありましたらご教示いただければ幸いです。

また、昆虫食やコオロギ食については、参考になる本も出版されています。著者のスタンスはさまざまですが、幅広い情報を知りたい方は一読されることをおすすめします。

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