「食用コオロギのニュースが急に増えた」
「コオロギ推しが始まっている」
そう感じている人が多いようです。
それはなぜなのでしょうか。一体どんな理由で、コオロギを食べることが奨励されているのでしょうか。
そんなあなたの疑問に答えるために、さまざまな関連情報を調べ、わかりやすくまとめてみました。
コオロギ食の報道はなぜ急に増えたのか
きっかけはSNSの炎上
食用コオロギに関する報道が増えたきっかけは、SNSの炎上です。
Twitterでは、2023年2月の中旬頃から3月初旬にかけて、食用コオロギに関するツイートが爆発的に増えました。
トピックの大半を占めたのは「徳島県の高校で、SDGsへの取り組みとしてコオロギパウダーを使った給食が提供されたこと(2022年11月と2023年2月)」や、「敷島製パン(パスコ)が、コオロギを使ったパンやお菓子を製造販売していること」でした。
とくに目立ったのは、「なぜ給食にコオロギを入れるのか?」「子どもに強制するなんておかしい」「知らないうちにコオロギを食べさせられたくない」といった疑問や不安の声。
実際は、その高校でコオロギ給食を食べたのは、希望者だけでした。
敷島製パンも、コオロギを使った商品はオンラインだけて販売していて、「ほかの商品とは工場の建屋も製造ラインもスタッフも別」と、自社サイトで説明しています。
つまり、「強制」とか「知らない間にパンにコオロギが混入」という事態にはなっていません。
にもかかわらず、誤った情報もごちゃまぜで拡散され、パンの不買運動を呼びかける人まで現れて、大炎上となりました。
マスコミもこれに反応して「コオロギ給食」や「コオロギパン」などの話題を連日取り上げます。
このことが、「なぜ急にコオロギ食を推すのか」と、政府や企業、マスコミも批判の的になっていきました。
「コオロギを食べよう」の動きは数年前から始まっていた
とはいえ、コオロギ食を推奨する動きは突然始まったわけではありません。
2020年には無印良品が「コオロギせんべい」を発売して、売り切れるほど好評だったのを覚えている人もいるでしょう。
その前後も、さまざまな企業や団体がコオロギ食に取り組み、PR活動を展開しています。
プレスリリースを調べると、2017年に「ヴィレッジ・ヴァンガード・オンラインが昆虫食の福袋を販売」(2017年12月1日)という記事が配信されています。
福袋の中には、コオロギ粉末の入った「クリケットパスタ」も入っています。(現在はこの福袋は販売されていません)
雑貨通販 ヴィレッジヴァンガード公式通販サイト(https://vvstore.jp/)
2019年には「コオロギ塩」「昆虫ドレッシング」「コオロギ醤油」が登場しています。
2020年には昆虫食自動販売機が登場
2020年は記事の数がぐっと増えました。いつかピックアップしてみましょう。
「昆虫食自動販売機、上野アメ横に登場」「通販用のコオロギラーメン発売」「コオロギ粉末を使った柿の種を発売」「コオロギパウダーを使ったレシピコンテスト開催」「日本初、コオロギタンパクを使用したクリケットプロテイン発売開始」……。
コオロギ食を広める動きが活発化していることがうかがえます。2021年になると、この傾向はさらに強まります。
コオロギ食の情報は、実はコンスタントに提供されていた
2022年には、確認できただけでも180件弱のコオロギ関係のプレスリリースが打たれています。月に平均15本ほど、コオロギ食に関するPR記事が世に出ている計算です。
それらを元に作られるニュースやブログ記事も含めれば、相当な情報量です。
しかし、基本的に人間の脳は、関心のないことをスルーします。したがってそれらの情報は、大多数の人には「ないも同然」でした。
それが最近は、Twitterの炎上をきっかけに、「コオロギ」を関心事としてとらえる人が増えました。ニュースなどで取り上げられる回数も増えて、コオロギ関連の新しい情報がどんどん目に入ってきます。
その結果、「なぜ急にコオロギ!?」「ゴリ押しなのでは?」と反応する人が増えたわけです。
コオロギ食はいつから推奨されているのか
国連食糧農業機構(FAO)は10年前からコオロギ食を推奨
コオロギの食用に関して、世界的にはこれまでどんな動きがあったのでしょうか。
コオロギを含む「昆虫食」が最初に注目を集めたきっかけは、2013年に国際連合食糧農業機構(FAO)が昆虫食に関する報告書を発表したことでした。
その報告書の中にも、将来の食料危機に備えて「コオロギを食用として積極的に活用すべき」という言葉があります。
その2年後、2015年には、国連がSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する活動として、昆虫食を推奨しています。
これ以降、欧米諸国はSDGsへの取り組みの一環として、昆虫食の活用に取り組み始めました。
そして日本でも同じことが起きているわけですが、その中でも目立つのが、「食用昆虫の中でもとくにコオロギを活用しよう」という動きです。
昆虫食についてのくわしいことは「昆虫食とは何か」の記事をご参照ください。
コオロギを食用にするメリットとは
他の昆虫とコオロギに共通するメリット
食用コオロギの研究機関やコオロギフードを扱う企業は、まず、コオロギを推奨する理由として、次のようなメリットを挙げています。
コオロギには、少ない面積で大量に生産できる、生産サイクルが短いなどのメリットがあります。
環境負荷が小さい
コオロギは飼育時に必要なエサや水の量、CO2の排出量が牛や豚よりも少ないので、環境負荷が小さいとされています。
ただし、飼育時の空調設備の問題、CO2の排出量削減による植物への影響など、「もっと多角的に見て環境負荷を判断すべき」と指摘する声もあります。
栄養価が高い
コオロギにはタンパク質、ミネラル、ビタミン、脂質などの主要な栄養素が含まれています。乾燥させたものは、かつおぶしなどと同様に高タンパク食品として活用できます。
以上のメリットは、他の食用昆虫にもほぼ当てはまります。
くわしいことは、「昆虫食のデメリットとメリット」の記事にありますので、参照してください。
食用としてとくにコオロギが優れている点
さらに、「他の食用昆虫と比べて食用コオロギが優れている」とされているのは、次の3点です。
雑食性である
草食のイナゴなどはエサの管理が難しいですが、コオロギは雑食性なので基本的に何でも食べます。
食品製造のプロセスで出る廃棄物などもエサとして使えるので、食品ロスの問題にも貢献できるといわれています。
可食部が多い
FAOの報告書によれば、牛の可食部は全体の40%、コオロギの可食部は80%となっています。
また、食用コオロギパウダーの場合はコオロギをまるごと全部粉砕して作るので、可食部100%ということになります。
食料としての実績がある
徳島大学の野地澄晴学長は、著書で次のように書いています。
「コオロギは東南アジアの食文化に深く根付き、例えばタイには約2万軒のコオロギ農家が存在する。(中略)コオロギが普通の食品として使用されていることが、コオロギの有用性を既に証明」(『最強の食材 コオロギフードが地球を救う!』野地澄晴・小学館新書より引用)
日本人にはなじみがない食用コオロギですが、タイやカンボジアなどの国ではすでにコオロギの養殖が農業として根づき、日常的に食べられている実態があります。
こうした事実も、コオロギ食が推奨される大きな理由になっているのです。
まとめ
コオロギ食に関する報道が目立つようになったのは、SNSでの炎上がきっかけでした。
でも、コオロギ食推奨の動きはもっと前から始まっていて、多くの人が最近になってそれに気づいたというのも事実です。
それ以前から、SDGsを意識した研究機関や企業が、食用コオロギのメリットに注目して活用に取り組んできました。
それに賛同するのもしないのも、その人の考え方次第。
今回の炎上も「環境」や「食」について考えるひとつのチャンスにはなっていますね。
ただ、くれぐれもデマには気をつけたいものです。