葉山発 アートで美味しいランチに学ぶ「自然体のエシカル」とは

エシカルな葉山ランチ

「このきれいな色は何の色?」

「この美味しい野菜はどこのもの?」

フードデザイナー横田美宝子さんが生み出す、カラフルな料理やお菓子の数々。それらは見ているだけで心躍る食のアートです。そして、あれこれ質問したくなります。

実は、スタイリッシュな見た目は「作戦」なのだそう。

なぜなら、横田さんが食を通して真に伝えたいのは、「美味しい」や「きれい」のそばに、背後に存在するものだから。

「養生ご飯&おやつ」と名づけられた料理やお菓子たちは、いったいどんなストーリーを隠し持っているのでしょう。横田さんの仕事への取り組みも含め、じっくりと伺いました。

フードデザイナー 横田美宝子さんのプロフィール

横田美宝子 Mihoko Yokota

株式会社3Pm・さんじ代表取締役
葉山にあるフードスタジオ「3pmさんじ」のオーナー・フードデザイナー

「色を食べる®」をコンセプトに、SDGsを視野に入れた菓子製造、弁当製造、フードデリバリー、ケータリングサービス、商品開発、就労支援施設での菓子製造や製造オペレーション指導など多方面で活動中。

著書に『3pmさんのおやつまみいろいろ 野菜そのままの自然の色がおいしい!』(文化出版局)などがある。

相模女子大学と共同開発、社会福祉法人湘南の凪 mai!えるしい(就労継続支援B型事業)と協働製造している「マーガレットケーキ」の取り組みでは、第1回神奈川なでしこブランド受賞および、フード・アクション・ニッポンアワード2012年度審査委員特別賞を受賞。

エシカルアクションの推進に取り組む葉山町が選定した第1回はやまエシカルアワード2023優良事業者部門にて優秀賞を受賞。

3pmさんじ 自然の色を食べるおやつ&デリ (3pmsanji.com)

3pm・さんじのある日のランチメニュー

葉山ランチメニュー

神奈川県三浦郡葉山町は、里山や美しい海岸など豊かな自然に恵まれた町。

その葉山の静かな住宅地に、横田美宝子さんが経営する株式会社3pm・さんじのフードスタジオがある。

カフェも兼ねているフードスタジオでは、完全予約制でランチを提供してきたが、コロナ禍の影響もあり、この2年ほどランチの予約は受けていない。

しかし、今年は葉山芸術祭(4月22日~5月14日)の参加企業として、物販のほか、久しぶりにランチも提供するとお聞きして、ワクワクしながらお邪魔した。

この日のランチメニューは次の通り。

・葉山の農薬不使用ビーツとスパイス塩麴ごはん

+ルッコラの花とキヌアパフ

・新玉ねぎのスペイン風オムレツ

+自家製トマトソース添え

・紫人参のめぐる味醂マスタード和え

・もち麦入りポークボールと出会えた野菜の自家製和風ガラムマサラグリル

・フレッシュガーデンサラダ

・サプライズプチおやつ

写真の通りカラフルで、歓声をあげたくなる美しい一皿だ。

3pm・さんじが提供するフードに出会う人は、それらがすべて自然のままの素材の色だと知って、もう一度驚く。

初めてではない筆者も、やっぱり「わあ!」と言ってしまった。そして素材の旨味が活きた料理やデザートを口に運ぶたびに、体が喜ぶのを感じた。

素材もまるごと、人も個性まるごと使って

有機無農薬野菜とハーブ

organicgeeksのマイケル・キダ氏から届いた野菜やハーブ

2004年創業の株式会社3pm・さんじは、食にまつわる多彩な活動を展開している。お弁当やお菓子の製造販売、デリバリー、ケータリングサービス、レシピ・商品開発やフードコンサルティングなど。

お菓子の製造は、地元・葉山の就労支援施設「mai!えるしい」(社会福祉法人「湘南の凪」運営)との協働で行う。このコラボはもう10年以上続いている。

「こういう活動をしていると、以前は『社会貢献ですか』みたいな質問がすごく多かったんです。でも、直接のきっかけは東日本大震災でした」

震災の影響で、横田さんの会社も仕事が大幅に減った。人も場所もできるだけ抱えない事業構築を模索する中で、縁あって出会ったのがmai!えるしいだった。

「人も場もある。作業にちょっと時間がかかったりはするけど、じゃあ一緒にやろうと」

商品はどれも、安心・安全なだけでなく、フードロス解消や地産地消ともリンクしたサステナブルなもの。

たとえば、葉山野菜のベジタブルクラッカー「VEGICRA」に練り込んでいるソースには、虫食いや不揃いな農薬不使用野菜も積極的に使っている。

「そうやって『素材もまるごと、人も個性豊かなまるごと」という感じでやっています」

mai!えるしいとの協働事業は、この10年で販路も広がり、順調に伸びている。

誰だってできることがあるし自分を表現したい

誰だってできることがあるし自分を表現したい。

横田さん、店長の田中さん、mai!えるしいの人たち

ちょうど取材中、mai!えるしいのメンバーがお菓子の納品のためにスタジオにやってきた。

仕事のこと、趣味のダンスのことなど、みんなで話がはずむ。実は、筆者は10年ほど前にmai!えるしいの製造現場を見学したことがあるのだが、それも覚えていてくれたようだ。

でも、10年前は、メンバーがこんなふうに雑談することはまったくなかったという。

「ある程度パターン化された作業や工程の中で一人ひとりが関われる作業が固定されていたり、そこからのスタートだったんですけど、本当はみんなできるし、好きなこともあるし、話をしたいんですよね。そこがパッと開いたらすごいですよ」

点字紙をパッケージにアップサイクル

アップサイクルのパッケージを使ったVEFICRA

点字紙から作られたVEGICRAのパッケージ

葉山野菜のベジタブルクラッカーVEGICRAのパッケージは、施設で使われた点字紙をアップサイクルしたもの。とても厚みがあってしっかりしている。

きっかけをくれたのは、当時、横田さんと一緒にマーガレットケーキというお菓子の商品開発をしていた相模女子大学の教授。彼女が座間市の視覚障がい者施設「ライトハウス」を訪問した時に、この紙に目をとめた。

点字紙は、いまは機械処理してリユースできるようになったが、当時(11年前)はゴミとして捨てられることも多かった。これをお菓子のパッケージに活用してはどうかという話になった。

「袋作りを作業の導線に加えると、それもメンバーの仕事になって賃金が発生する。よそから買うよりも彼らにお金を払った方がいいから、やりましょうということで」

現在、mai!えるしいはお菓子の製造で忙しいため、パッケージの製造は点字紙を提供するライトハウスが担当している。人との縁から生まれたアイデアで、2つの施設との協働が実現した。

サステナブルな取り組みには数字の裏づけも必要

えるしいクッキー缶

「福祉施設で作られたお菓子って、おつきあいで買ってもらう傾向がまだまだ強いですけど、こういうちょっと工夫したパッケージとか美味しいものを提供すると、ニーズもあるしリピーターもすごく多いんです」

横田さんが関わるようになって、mai!えるしいの売り上げは2倍に伸び、4年前からは夏と冬のボーナスを全員に支払えるようになった。

「持続可能って、きちんとした数字の裏づけもないときれいごとになっちゃうので、そこが私の役目だと思っていて。現場の指導やサポートは主にうちの店長の田中が担当して、私は作り上げたものを外にお届けする立場ですかね」

「こうすれば人に届く」という方法がわかれば、新たな取り組みもどんどん生まれていく。

エシカルとかSDGsとか、横文字を使うと敷居が高くなる面もあるけれど、本当はすごく日常的なことなんだと思います」

横田さん自身、日常の延長線上で自分が心地よいことを、食を通じて続けてきたら「エシカル」につながった、そういう感覚なのだという。

葉山エシカルアワード2023優秀賞を受賞して

「葉山エシカルアワード2023」優秀賞を受賞

葉山・上山口に広がる棚田

2023年3月、横田さんははやまエシカルアワード2023の表彰式の壇上にいた。3pmさんじが、優良事業者部門の優秀賞を受賞したのだ。

葉山町は、2022年6月から「はやまエシカルアクション」という取り組みを始めた。

このプロジェクトは、産官民連携で環境、人、社会、地域に配慮した「エシカルな行動」を広めていくもの。これに賛同する事業者や団体の取り組みを評価し、表彰するのがはやまエシカルアワードだ。

3pmさんじは、社会福祉施設との積極的な協働や、フェアトレード食材や葉山産の無農薬野菜を使用した商品づくりなどが高く評価された。

「授賞式の登壇で受賞者がディスカッションする場があったんですが、みなさんすごく立派で。私はというと、この10年してきたことは、『無駄なくまるごと使い切ること』と『多様性とつながること』、本当にこの2つだけなんですよね」

無駄なくまるごと使い切ることも、多様性とつながることも、自然や人のありようを受け入れ、尊重し、活かす姿勢があるからこそ可能になる。

「私は『障がいは個性』という言葉には抵抗があるんです。それは親御さんが非常に苦労なさっているのを身近で見ていて、やっぱり個性じゃ片づけられないから。だけど、色とりどりだし個性豊かなのは事実だから、みなさんのそこはちゃんと見て、肯定力をもって接したいなと思っています」

自閉症のメンバーの一言に衝撃を受けた

無農薬野菜の収穫

横田さんは、mai!えるしいのメンバーと一緒に、お菓子に使う野菜の収穫もする。そこである時、忘れられない出来事があった。

「Kさんという、ふだんほとんど話さない自閉症の方なんですが、土に触れた途端なんておっしゃったと思いますか?」

場所は、江戸時代から農薬不使用の栽培が引き継がれている地元の里山。そこでKさんがつぶやいた言葉は、「地域の未来」だった。

「私、震えちゃって。SDGsなんて言葉もまだない時です。すごい能力があるんだなと思って、『え~っKさん、未来って何?』って聞いちゃったんです。その答えがまたすごくて、『未来は今。今が未来」って」

この人たちは、見方によったら足りないところがあるのかもしれないが、その分すごく充実している何か=豊かさを持っていると横田さんは感じた。

「それで、『絶対この人たちについていく!』と思いました。だから、私自身が調子いいというか、ご機嫌でいられるんですよね」

以前、社会貢献とは何かと質問されて、横田さんは「常に自分がご機嫌でいること」と答えた。相手はそれを聞いてキョトンとしていたそうだが、わかる人にはきっとわかる。

自分の機嫌は必ず周囲に伝わり、連鎖する。一人ひとりの人間のありかたで社会の質が決まるのだから、自分自身を整えることは基本中の基本なのだ。

操作されていないものが美味しいと思う

操作されていないものが美味しいと思う

新鮮な葉山のオーガニック野菜

いつもふんわり柔らかい物腰の横田さんだが、喜怒哀楽ははっきりしているという。食は危険が伴うものなので、それに関しては「怒るときはすごく怒る」そうだ。

たしかに、食は私たちの健康や命と深く関わっているから、おろそかにしてはならないことがある。そこをきっちり守る生産者、販売者、提供者こそが信頼に値する。

仕事で使う食材についても、横田さんの中にははっきりした基準がある。

操作されていないものが美味しいと感じるんです。当たり前のように夏野菜が冬にあったり、もちろんそれは悪いことではないけど、やっぱり美味しいなと思うのは旬の時期だったりするんですね」

オーガニックの野菜を使っているのも、美味しいと思うものを選んだ結果だ。そして葉山という土地柄、食材の多くは地元でまかなえる。

「ベジタリアンとか一切そういうのはないんです。『季節のもの、操作されていない大地のものは美味しいよね』ということで地産地消を心がけていますけど、スパイスなどは遠い産地のものも取り入れます。遠くのものは遠くのもので、未知なるワクワク感があるじゃないですか。そんなスタンスでずっと前からしています」

美味しいものの背景に悲しみがない方がいい

横田さんはフェアトレードの食材も30年ほど前から使っている。それは、フェアトレードなら海の向こうにいる作り手の顔を知ることができるから。

ただ、業者によっては裏で児童労働をさせているなど、実態が伴わないケースもあると知ったので、より厳選しようと考えている。

「美味しいとか美しいと思うものの背景に、悲しみがない方がいいと思っているので、そういった食材を使いたいなと思っています。でも、私はお肉を食べることも悪いとは思っていなくて、一つひとつの命をありがたくいただくという気持ちでいます」

横田さんの知人に、葉山牛の生産者で直営の「葉山マルシェ」を運営する石井裕一さんがいる。

石井さんは土鍋で炊いたおからを牛に食べさせ、暇さえあればお尻を軽くたたいて「元気か」と声をかけ、精一杯愛情を注ぐ。清潔な環境で、極力ストレスを与えず、健康的に育てる。そうやって育った牛たちは、出荷される時も暴れない。

「石井さんは牛塚も作って供養しているんです。『ああ、こういう命のありかたってあるんだな』と。逆に、人間の都合でホルモン剤をガンガン打たれたり、発色剤が使われたお肉は使いたくないなとか。要はその背景をちゃんとわかって使うというのが、食べ物に対して敬意を表することなのかなと思います」

ローカルシェフとして地域の食材の背景を伝える

(97) EATLO シェフインタビュー「横田 美宝子」 - YouTube

食材の背景を消費者に直接伝える活動も始めている。

湘南エリアを舞台に、食で地域を体験できるEATLO(EAT LOCAL)というサービスがある(運営元:エンジョイワークス)。

参加するユーザーは、ローカルシェフ(地域で活躍する料理家)のリストから希望するシェフを選び、食材の下ごしらえから始まる料理の技を見学し、出来上がった料理を味わう。

そして、シェフとの交流を通してその土地に根差した食や暮らしの情報を知り、それを携えて街へ出て、より深く地域を体験することができる。

横田さんは、EATLOのローカルシェフのひとりとして食事を提供するとともに、地元の優れた食材やその生産者の情報を伝えている。

「平飼いの卵にしても、やっぱり高いんですよ。普通のより。でも、3回に1ぺん食べて回していくとか、そういう選び方もあるのかなって」

このご時世、安いものを買わないとなかなか生活が大変だったりするし、横田さん自身も安いものを手に取ることはある。

「でも、狭い飼育場にぎゅうぎゅうに詰め込まれて抗生剤を打たれている鶏だけでなく、庭のような飼育場を歩き回って育った鶏の卵も、選択肢の一つとして知っておくほうがいいですよね」

いろいろな食材の背景を伝えると、参加者のほとんどから「初めて知った」という声が上がるそうだ。

フードデザイナーを名乗る意味とは

フードデザイナーを名乗る意味とは

「そういう食べ物の背景を伝えていくのが私の役目かなと思っています。私は料理家でも主婦でも板さんでもないし、フードデザイナーと名乗っているのはそういう意味ですね」

だから横田さんは、レシピや商品を生み出すだけでなく、食べ物が持つ「切ない課題」にいつも向き合っている。たとえばフードロスや、次の世代に受け継がれずにすたれてしまう郷土料理など。

「そういうものを、なんらかの形でつなげていくのが私の役目かなと思っているので、食事が主役ではないんですね」

デリバリーにこだわっているのにも理由がある。

会合のメインの目的は法事やウエディングや趣味の集いだったりするが、そこにみんなが「わあ、いいね」と思える食事があれば、つながりが深まったり、何かに興味を持つきっかけになったりする。

「だからいつも『料理はきっかけ』というスタンスで作っています」

おしゃれな見た目の背景にあるものを伝えたい

おしゃれな見た目の背景にあるものを伝えたい

横田さんの著書『3pmさんのおやつまみいろいろ』(文化出版局)

いまの一般的な傾向として、エシカル商品は、食べ物にしても服やグッズにしても見た目が素朴なものが多い。

でも、横田さんデザインの料理やお菓子は、文句なしに「きれい!おしゃれ!センスいい!」と感じさせる。そこもまたすごい。

「それも作戦なんですよ。「色を食べる」で商標を取ったのは20年ぐらい前なんですけど、ゴールは『背景』を届けることなんです。たとえば福祉のことでも。それが、なんとなくどんよりしていると届けられないんですよ」

でも、フロントエンドで「わあ!」と盛り上がると「これって何の食材?誰が作っているの?」へ行きつく。「だからそれは作戦です」と横田さん。

その作戦はバッチリ当たっている。見た人は質問したくなるし、誰かにシェアしたくなる。

「説明してわかってほしくないんですよ。あんまり得意じゃないし。だからずるいけどわかってくれたらいいなというのが、全部デザインに込められているんですね」

会社として「色を食べる」の商標を取ったのも、旬の食材の色はもちろん「十人十色のみなさんと作っている」という背景も、すべて「色を食べる」という言葉に込めているからだ。

時にはコンビニのジャンクフードも食べる

薬膳への造詣も深い横田さんだが「基本、食べ物に良い悪いはない」と考えている。

「コンビニのちょっとジャンクなものでも、好奇心とかは育つじゃないですか。全部ダメダメ!と言うとたぶん偏っちゃうと思うのね。私もポテチなんか大好きだし、季節限定商品なんかあるとすぐ買いますよ」

日本のお菓子メーカーの商品開発力や企業努力は、筆者も素直に「すごいな」と思う。

「私もすごいなと思ってそういうものを食べるし、手に取ります。ただ、やっぱり食べ過ぎると何かしらバランスを崩しますよね。口内炎で痛い思いをして反省したり。中医学に『過ぎると邪になる』という言葉がありますけど、先人の知恵を感じる良い言葉だなと思います」

食べ方は考える必要があるが、昔ながらのものも未来的なものも、ジャンクなものもすごく健康的なものも、あっていいじゃないかというわけだ。

「そうなんです。だから、すごくストイックな生活に思われたりするんですけど、全然そんなことはないです。なんでも食べるし、好奇心が旺盛だからコンビニに行くと端から端まで見てます」

気がつくと、パケ買いでカゴがいっぱいになっていたりするそうだ。仕事中の横田さんの姿からはちょっと想像がつかないが、想像するとなんだかホッとする。

レシピのとらえ方ももっと自由に

レシピのとらえ方ももっと自由に

一見はちみつに見えるのは、みりんをアレンジしたシロップ

料理のレシピというと「塩何g」「砂糖何g」とか、型にはまったイメージが強い。

味の再現性を確保するには数値で表すことが大切だし、とくに商品の場合はそうした作り込みが必要だ。横田さんもそこは厳格に守っている。

「でも、ご存じですか。レシピってそもそもレシーブ(受け取る)が語源なんですよ」

本当はその食材や味覚から受け取った感覚を生かして、自分のさじ加減で作れば、美味しいものができるはず。しかし、慣れないうちは難しい。

「だから私は、レクチャーではそっちを本当は伝えていきたくて、一応『これを何g』とかの説明もしますけど、「別にご自由でいいんですよ」と必ず補足するんです」

意図しないで生まれるつながりこそが大事

3pmさんじ隠れ家

「余談ですけど、私は『つながり』という言葉を大事にしているんですね。意図してつながろうとするのではなく、『あ、こんなことやっているみんながつながっちゃった、みんなが混ざり合ったから美味しくおいしくなっちゃった』ということを、これからも大事にしていきたいと思っています」

大地とも人ともそういう関わり方をしていきたい。「あそこの会社は大きいから偉い」とか、そういうことではないと横田さんは言う。

商品づくりも、結局は関係性づくりだと考えている。たとえば他の地方の人たちと一緒に何かをするときも、いきなり出向いて「こういうものを作りましょう」では成り立たない。

沖縄県本部町の地域創生プロジェクトでも、1年かけて関係性を作ってきたし、これから商品を作っていく時も関係性を大事にしていきたいなと思っています」

フードコンサル実績:地域創生プロジェクト@沖縄  3pmさんじ 自然の色を食べるおやつ&デリ (3pmsanji.com)

新しいものを生み出す「リエゾン」を展開していく

3pmさんじさん料理

一般的なイメージとして、商品開発の仕事は「古いものを壊して新しく作る」と思われがち。でも、横田さんは商品開発をスクラップ&ビルドとはとらえていない。

リエゾンという言葉が好きなんです。リエゾンって『点と点のつながり』とか『組み替える』という意味があるんですけど、なんでもかんでも壊して新しいものを作るんじゃなくて、自分が歩んできた道、それこそ先祖の大事にしてきたこととか、もう一回そこを大事に見ていきたい」

たしかに、日々生まれる新商品や新サービスの特徴は、ほとんどが「組み合わせの妙」だったりする。全部壊してゼロから生みだしているわけではないのだ。

「こことここを組み替えたらすごいものが生まれちゃった、ということもたくさんあるんです。そういう視点で、美味しい時間を作っていけたらなと思っています」

取材を終えて

横田さんは、料理はチームプレーだと言います。

健全な大地があって、そこに寄り添う生産者、届ける人、作り手、そして食べる人がいて、その結果、楽しさや感動のある時間が創造できる。だから料理も作り手も、その中の一部にすぎないと

横田さんの一つひとつの言葉から、そういう大地や人を敬う気持ち、つながりを大切に生きる姿勢が非常に伝わってくる取材でした。

環境や社会とのからみでは、SDGs、サステナブル、エシカルと、時代とともに新しい表現が出てきます。何か特別なことを求められている?と感じる人もいると思います。

でも、決してそうではなく、「自分が本当に心地よいと感じること」を出発点にしていいのだと、横田さんはその仕事を通じて教えてくれます。

美味しいの横に、後ろにある尊い存在こそが旨味の素であり、これをお弁当やお菓子にして届けたいのです。今もこれからも……」

その思いはこれからますます多くの人に届き、幸せな時間やご縁を生みだすに違いありません。

3pm・さんじ ~自然の色を食べる~

とみやプレミアムスクール(宮城県富谷市と宮城大学による地域活性化共創プロジェクト)

2023年11月、横田さんがこちらのスクールの第4回講義「フードデザインとまちづくり」の講師として登場します!

取材・文: Keiko Hasegawa

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