いま、昆虫食が大きな注目を集めています。
「なぜ昆虫を食用にするの?」
「ほかの食べ物でいいんじゃないの?」
「強制されるのはイヤだ!」
いろいろな声が聞こえてきますが、そもそも昆虫食とは何か、なぜ注目されているのか、そこを知るのも大事ですよね。
この記事を読んでいただくと、昆虫食とはどんなもので、どんな背景があって注目されるようになったのか、この2つが簡単にわかります。
あなたが昆虫食に対してどういうスタンスを取るか、考える際のお役に立てれば幸いです。
昆虫食とは
昆虫食とは、文字どおり、昆虫を食料にすることです。
国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、「昆虫は20億人の食生活の一部となっている」とのこと。
人類の歴史は飢餓との戦いといわれています。
現在のような、数字の上で、地球上のすべての人が十分食べられるほどの食料生産(穀物の生産量は毎年約27億トン、FAO調べ)が実現したのは、それほど昔のことではありません。
長い人類史の中で、昆虫も貴重な食料、タンパク源のひとつとして活用されてきました。その流れで、いまも世界各地には昆虫食の習慣が残っているわけです。
食用昆虫の種類と昆虫食がさかんな地域
食用昆虫の種類は1900種を超える
日本人にとってわりあい身近な食用昆虫といえば、イナゴやハチの子(クロスズメバチの幼虫やさなぎ)、カイコのさなぎ、ザザムシ(カワゲラなど水生昆虫の幼虫)、それに、最近注目を浴びているコオロギあたりでしょう。
ところが、前出のFAOによれば、世界ではなんと1900種類以上の昆虫が食べられているそうです。
一番食用されている昆虫は甲虫類(コガネムシ目、31%)で、続いて多い順に毛虫・イモムシ類(チョウ目、18%)、ハチ(アリ目、14%)、バッタ類(バッタ目、13%)、セミ(カメムシ目、10%),シロアリ(シロアリ目、3%),トンボ(トンボ目、3%)、ハエ(ハエ目、2%)、その他の昆虫類(5%)となっています。
世界では、私たちの想像以上に、さまざまな昆虫が日常的に食べられているのです。
昆虫食がさかんな地域は世界に散らばっている
昆虫食が行なわれている国は、世界130か国にのぼります。
一般的なイメージでは、昆虫食がさかんな地域というと、アフリカや東南アジア(とくにタイ、カンボジア)、南米、国内では東北地方や長野県の一部、という感じではないでしょうか。
しかし実は、意外な国でも昆虫食が親しまれています。
たとえば、「北欧デザイン」などでおしゃれなイメージが強いフィンランドでも、2017年にコオロギパンの販売が始まり、よく売れているといいます。
しかもそれ以前から、フィンランド、オランダ、ベルギー、ドイツなどの国では昆虫を使った食品が出回っているのです。
2025年、昆虫食の市場規模は1000億円に
現在、昆虫食の市場規模は右肩上がりに伸びています。
日本能率協会総合研究所が2020年に公開した調査レポートによれば、世界の昆虫食の市場規模は、2019年度で79億円。これが、2025年には1000億円に達すると予測されています。
昆虫食が流行らない理由とは
昆虫食の市場規模が伸びているとはいえ、日本も含め先進国における昆虫食はまだまだマイナーな存在です。昆虫食が流行らないのはどうしてでしょうか。
「昆虫食を避ける」という人たちは、だいたい次のような理由を挙げています。
- 昆虫を食べる習慣がない
- 昆虫に対する嫌悪感がある
- 昆虫の安全性に不安を感じる
- 他の食べ物から栄養がとれる
- もっとおいしいものがある
もちろん「昆虫食をイヤだと思わない」「食べたい」「おいしいと思う」という人もいます。
ですが、それ以上に、昆虫食に抵抗を感じる人や「昆虫以外の選択肢がある」と考える人が多いようです。先進国では切迫した食糧危機が起こっていないというのも、ひとつの要因でしょう。
リクルートが2022年11月、日本全国の20~60代の男女を対象に行った調査(有効回答数1035人)によれば、「食べることに抵抗がある食品・食品技術」の1位は昆虫食で、「絶対に避ける」という回答が62%でした。<リクルートホールディングスのプレスリリース(現在は削除済み)より>
昆虫食に関する議論はまだまだ続きそうです。
なぜ昆虫食が推奨されているのか
昆虫食の背景には食料不足の問題がある
世界的に昆虫食への注目が集まり、推奨されている背景には、環境悪化と人口増による食料不足の問題があります。
国連の推計によれば、世界の人口は2030年に85億人、2050年には97億人に達します。
国際連合食糧農業機関(FAO)は、2050年には動物性タンパク質の不足量が1億トンになると予測しています。
そういう事態に対応できるタンパク源として、昆虫にスポットライトが当たっているのです。
なぜ肉や魚ではなく食用昆虫なのか
そうは言っても、昆虫食になじみがない人にとっては、動物性タンパク質といえばやっぱり肉や魚や乳製品ですよね。
なぜ、畜産物や水産物よりも食用昆虫が推奨されるのでしょうか?
簡単に言うと、「昆虫のほうが生産効率と持続性に優れている」という理由からです。
昆虫は、家畜や養殖魚などと比べると、より少ない飼料(エサ)や水、より少ないCO2 の排出量で飼育でき、栄養も豊富という特長があります。
このことから、食用昆虫の活用がSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも役立つというのが国連の主張で、これに賛同する動きが海外諸国や日本で始まっているのです。
昆虫食はいつから推奨されているのか
2013年、FAOが食用昆虫についての報告書を公表
昆虫食がクローズアップされるきっかけになったのは、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が公表した「食用昆虫(Edible insects)」という報告書です。
その中でFAOは、「食料問題の解決策のひとつとして、昆虫を食料や家畜の飼料として活用することが望ましい」と提言しています。
出典:オリジナルの論文はこちらで読むことができます。Edible insects(https://www.fao.org/)
2015年、国連がSDGsへの取り組みとして昆虫食を推奨
2015年9月の国連サミットでは、FAOの報告書にもとづいて昆虫食が推奨されました。
このサミットでは、SDGs(持続可能な開発目標)が採択されています。SDGsとは国連加盟国が達成を目指す2016年から2030年までの国際目標で、全部で17の目標に分かれています。
国連は、SDGsの中の2つの目標を達成するための重要な取り組みのひとつとして、世界の国々に「食用昆虫の積極的な活用」を求めたのです。
昆虫食で達成を目指す2つの目標
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2016年、農林水産省・農研機構がシンポジウムを共催
日本では、国連サミットの約1年後の2016年11月、農林水産省と農研機構の共催で、国際シンポジウム「昆虫の新たな用途展開の可能性を探る」が開催されました。
*農研機構とは、農業と食品産業に関する研究開発を行う日本最大の機関
このシンポジウムの目的は、「海外から専門家を招き、食料・飼料としての昆虫利用の先進的な事例について紹介し、新たな昆虫利用の可能性を探っていく」というもの。
日本の昆虫食への取り組みは、国際社会の動きと連動する形で始まっていることがわかります。
昆虫食普及の動きはどこまで進んでいるのか
昆虫が「新規食品」としてEU市場に広まる?
2018年、EUは昆虫を「新規食品」(ノヴェルフード)として規定しました。
新規食品とは、「1997年5月15日以前にはEUの域内で一定の消費がみられなかった食品や食品原料」のことです。
これによって、欧州食品安全機構(EFSA)に申請して認可が下りた昆虫食品は、EU全体に市場を広げることが可能になります。
2021年1月には、乾燥イエローミールワームが初めて食用昆虫としての安全性を認められ、同年6月には欧州委員会によってEU市場への流通が許可されました。
ミールワームとはゴミムシダマシ科の幼虫のこと。イエローミールワームはチャイロゴミムシダマシの幼虫で、黄色いのでそう呼ばれています。
続いてトノサマバッタが、2022年2月にはコオロギが、新規食品として正式に認可されました。
アメリカではコオロギのプロテインバーが人気?
アメリカでもブームとまではいかないものの、じわじわと昆虫食が広がっています。
コオロギの養殖農場もあり、飲み物やシリアルなどに混ぜるためのコオロギパウダー、コオロギパウダー入りのプロテインバーやお菓子も作られています。バッタやコオロギの形がそのままのスナックなども市販されています。
とくにコオロギパウダー入りプロテインバーは、次世代栄養食品として、スポーツ選手をはじめ、健康意識の高い人々に支持されているとのこと。
ハリウッドセレブも昆虫食をアピール
ハリウッドセレブも昆虫食のアピールに一役買っています。
その先駆けといえるのがアンジェリーナ・ジョリー。2017年、彼女がカンボジアで、自分の子どもたちと楽しそうにサソリとタランチュラを食べるようすが報道されました。
ニコール・キッドマンも、2018年にファッション誌「ヴォーグ」の企画で、イモムシ、ミールワーム、コオロギ、揚げたバッタを食べながら、味や食感などの感想を語っています。
どちらの映像もYouTubeで見ることができますが、2人とも昆虫食にまったく抵抗がなさそうなのがスゴイです。
日本でも昆虫食普及の動きが始まっている
日本でも、昆虫食を推進する研究機関や団体、昆虫フードを提供するメーカー、販売店、レストランなどが登場しています。
食用昆虫の中でも、日本で積極的に活用され始めたのがコオロギです。
無印良品からコオロギせんべいが発売されたのは2020年4月のこと。
このコオロギせんべいに使われるコオロギパウダーを製造しているのは、徳島大学発の食用コオロギ生産のベンチャー企業、グリラス社です。
グリラス社は、自社でも「シートリア」のブランド名でコオロギを使った商品を製造販売しています。菓子メーカーとコラボした、コオロギパウダー入りのチョコクランチやクッキーなどです。
日本ではほかにもコオロギラーメン、コオロギ醤油、コオロギパンなどが登場していて、最近とくに話題となっています。
日本でコオロギ食品を手がけている企業については、別の記事でも紹介していきます。
「学校給食にコオロギ」の波紋
「子どもに昆虫食を強制するな」
2023年2月中旬頃から「徳島県の高校が給食にコオロギを入れていた!」という話が急速に広まり、大騒ぎになった件はご存じの方も多いでしょう。
「食用コオロギそのものが受け入れられない」という声や、「食べたい人が食べるのはいいが、子どもに強制するのは許せない」という意見が多かった印象です。数は少ないですが肯定派の人もいました。
「給食」と聞くと、どうしても「生徒全員に出されるもの」と思いがち。それで、「生徒に強制的にコオロギを食べさせるなんて!」という批判が殺到したわけです。
実際は希望者だけが食べていたが、試食は中止
でも、元の記事を読むと、「高校の食物科の生徒がコオロギパウダーを入れたコロッケなどを作り、希望者のみに試食として提供された」と書いてあり、強制ではなかったことがわかります。
Twitterを見ると、元記事を読まず、他人の書き込みだけを読んで反応している人も目立ちました。
その高校では、昆虫食の試食は2回行われましたが、現在は中止されています。
昆虫食のメリット・デメリットも知っておこう
食用昆虫は、たしかに生産効率が抜群によく、環境への影響も少なく抑えられるメリットがあります。
でも、昆虫があらゆる面でパーフェクトな食材かというと、そうではありません。解決すべき課題もあります。
そのひとつがアレルギーの問題です。
コオロギなどの昆虫に含まれるタンパク質やキチン質(エビ、カニなどにも含まれる物質)が、人によってはアレルギーを引き起こす恐れがあるのです。
それ以外にも、間違った情報や間違った食べ方(生食してはいけないものを生食するなど)によって、弊害が出る可能性があります。
私たちにとって大切なのは、正しい知識をもつことです。知識を身につけて初めて判断できることもたくさんありますよね。
信頼性の高い情報源で、昆虫食のメリットやデメリットについて確認することをおすすめします。
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参考昆虫食のデメリットとメリット一覧!リスク回避のための3つの注意点
昆虫食に関して、いまは大きく意見が分かれている状況です。 「いやだ、避けたい」という人。 「食べたい。実際に食べている」 ...
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まとめ
この記事では、昆虫食について最低限知っておきたい情報をお伝えしてきました。
昆虫食は食料危機への対策のひとつとして注目されていること、SDGs(持続可能な開発目標)と深いかかわりがあることなど、わかっていただけたと思います。
これを受けて、普及のためのさまざまな試みが始まっています。
ただ、昆虫食はいろいろな面でハードルが高いのも事実です。
2023年現在、世界の人口は約80億人。20億人が昆虫を食べているとはいえ、食べていない人のほうがずっと多いです。はたして昆虫食は、新しい食習慣としてどこまで受け入れられるでしょうか。
いずれにしても、食料問題は私たち全員が当事者です。
昆虫食を肯定する人もそうでない人も、自分はどうするのか、何ができるのか、あらためて考えていきたいですね。