ラボ(研究室)で作られる代替肉=培養肉への注目も高まっています。
フードテックの代表的な存在として研究開発が進む培養肉は、日本の食卓に上る日もそう遠くないといわれているのです。
培養肉とはどんなもので、どう作られるのか。
どんなメリットやデメリットがあるのか。
さまざまな文献や、Webサイト上で開発者から発信された情報を元に、初めての方にもわかりやすく解説していきます。
培養肉とは何か
培養肉とは、英語でcultured meat。動物の細胞を培養して作られる肉をこう呼びます。
家畜の肉や魚肉に代わるものとして脚光を浴びている、「代替肉」(人工肉)の一種です。クリーンミートとも呼ばれます。
動物由来の培養肉は、肉の味わいを再現しやすく、動物性の栄養成分もそなえています。ここが大豆ミートなど植物由来の代替肉との大きな違いです。
いま、フードテック(食の最先端技術。FoodとTechnologyを合わせた造語)を駆使して「新時代の食」を開発しようとする動きが活発になっています。
培養肉の研究開発もそのひとつで、非常に大きな注目を浴びている分野です。
培養肉の作り方
培養肉の作り方は、動物の筋肉細胞などから少量の細胞を取り出し、体外で大量増殖させて食肉製品に加工するというもの。
細胞を増殖させるための培養液(培養培地)には、栄養となるアミノ酸やホルモンの添加など、増殖に必要なさまざまな調整が行われます。
元になる細胞は生きた牛や豚から採取できるので、「動物の命を奪わずに肉を作れる」ということが、培養肉の大きなセールスポイントとなっています。
ただし、現段階では、まだ完璧にそれができているとはいえません。たとえば鶏や魚は生きたまま細胞を取り出すのが難しいので、多くの場合、屠殺が必要になるようです。
また、細胞の増殖因子として、牛などの胎児の血清を利用する方法がありますが、その場合も胎児の命は失われてしまいます。
そこで現在、動物の血清ではなく、人工的に作られた血清で細胞を増殖させる研究も進んでいるようです。
培養肉の4つのメリットとは
培養肉の開発を手がける企業や研究者は、一様に、「培養肉を通じてSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する」というポリシーを掲げています。
そして、培養肉の具体的なメリットとして次のことを挙げています。
メリット1、環境負荷の低減に役立つ
第1のメリットは、培養肉は家畜の肉と比べて環境負荷が少ないこと。
肉の過剰な消費、そのニーズを満たすために「工場式」で行われる畜産業は、さまざまな問題を引き起こしています。
エサとなる穀物の過剰生産、大規模畜産を行うための森林伐採、排水による水質汚染や土壌の劣化など。
また、牛の「げっぷ」から出るメタンガスにはCO2の25倍の温室効果があるといわれ、気候変動に歯止めをかけるためにも対策が急がれています。
一方、培養肉は、生産のプロセスでメタンガスを大量に排出することはなく、広大な土地も大量の水や飼料も必要としません。
このことから、培養肉の生産を増やし、家畜の肉と一部でも置き換えていくことが環境保全に役立つとされているのです。
メリット2、動物愛護(福祉)に貢献する
第2のメリットは、培養肉の普及によって、命を奪われる動物の数が減ること。
ヴィーガン(動物性のものを一切口にしない完全菜食主義者)やベジタリアン(肉や魚は食べないが、卵や乳製品はとる菜食主義者)が増えている欧米では、とくにこの点が評価されているようです。
地球環境への配慮だけでなく、動物愛護の観点からヴィーガンやベジタリアンを選択する人も多いからです。
効率が重視される「工業畜産」は、劣悪な環境で飼われ、不自然なエサを食べさせられる動物たちをたくさん生み出しています。動物の命が奪われること以前に、彼らが与えられる生育環境にも大きな問題があるわけです。
そうした倫理的な面から、「培養肉などの代替肉は、ベストとはいえなくてもメリットが大きい」と考える人たちも少なくないのです。
メリット3、未来の食料確保に役立つ
培養肉の第3 のメリットは、食料不足時代の新しいタンパク源になりうるということ。
今後の人口爆発や気候変動の影響で、遠くない将来に食料不足、タンパク質不足が起きると予想されています。
培養肉は「少ない環境負荷で大量生産でき、食料確保に役立つサステナブルな食材である」という理由で、植物由来の代替肉、昆虫食などとともに注目を浴びているのです。
メリット4、感染症の危険性を減らせる
家畜には伝染病などのリスクがつきまといますが、培養肉はそのリスクがきわめて低いというメリットもあります。
そもそも、培養肉の製造には徹底した衛生管理が必要です。培養肉の培養液には免疫機能がなく、ウィルスやバクテリアの影響を受けやすいからです。
衛生管理のレベルについては「無菌室のある施設でなければ、食品として成り立つものは作れない」という意見もあれば、「そこまで厳重な無菌室が必要かどうか」という意見もあります。このへんは立場によって食い違いがあるようです。
いずれにしても、培養肉に求められる製造環境からすると、畜産よりも感染症のリスクが低いのは間違いありません。
培養肉の4つのデメリット
培養肉に関しては、次のような問題点も指摘されています。どれもすぐに解決・改善できるものではなく、これからどんな経緯をたどるか見ていく必要がありそうです。
デメリット1、安全性に不明な部分がある
培養肉は、実用化も始まっているとはいえ、まだ開発の途上にあります。そのため、長期的な安全性については未知の部分が多いというデメリットがあります。
たとえば、ホルモンや抗生物質などの影響。
細胞を増殖させるためには培養液にホルモンを添加する必要があり、ウィルスの感染などを防ぐための処置(抗生物質など)も必要になりますが、それらが人体に与える影響については、まだ検証が進んでいません。
また、同じく細胞の増殖に必要なアミノ酸の質に関しても注意が必要です。
良質なアミノ酸は高価です。肥料用など食品グレードではないものなら安価ですが、その代わり、重金属やヒ素など、毒性のあるものが含まれているリスクがあります。コスト削減のためにそうした質の悪いアミノ酸が使われた場合は、健康被害につながりかねないのです。
デメリット2、生産コストが高い
培養肉には生産コストが高いというデメリットもあります。これは大量生産を難しくする要因にもなっています。
世界最初の「培養肉バーガー」はオランダのマーストリヒト大学教授、マーク・ポスト博士が開発に成功したもので、5年間の研究費を含め、なんと3000万円以上のコストがかかっています。
その後、各国の企業が生産コストの削減に取り組み、徐々に成果はあがっているようです。
日本にもインテグリカルチャーのように、すでに画期的な技術の開発に成功して、培養肉の大幅なコストダウンを実現しようとしているベンチャー(スタートアップ)があります。
培養肉を手がける日本の会社の取り組みについては、また別の記事でご紹介します。
デメリット3、消費者に抵抗感がある
実験室で培養された肉を食べることは、これまでの肉食の常識をくつがえすものであり、いわば未知の領域です。当然、「なんだか不気味だ。食べたくない」と感じる人もたくさんいます。
未知のものに対して警戒心を抱くのは人間の本能だからです。
科学的なしくみを説明されても、一般消費者にとっては、培養肉は依然として「よくわからない食べ物」です。その抵抗感をいかに払うかが、業界の課題になっています。
また、「安全性が確認できない」という理由で拒否感を持つ人も少なくありません。今後、しっかりと検証が行われていかないと、この懸念をぬぐい去るのは難しいでしょう。
デメリット4、伝統的な食肉産業に影響がある
培養肉やその他の代替肉の普及が進めば、当然、牛、豚、鶏などの食肉市場は少しずつ縮小していくことになります。
これによって、従来の食肉産業がマイナスの影響を受けることは避けられません。業界で働く人々の失業問題なども出てくるでしょう。
ただ、このことは、環境破壊の原因としてやり玉にあげられている畜産業のありかたを見直し、よりよい方向にギアチェンジする機会にもなるはずです。そうした努力をする畜産農家に対して、適切な支援が行なわれてほしいものです。
まとめ
最近注目を浴びている代替肉の中で、動物の細胞から作られる「培養肉」に関する情報をまとめてみました。
環境保全や動物福祉、食料危機への対応など、SDGsに関連したメリットが強調されている培養肉。
一方で、革新的な技術につきものの安全性への不安や、消費者の抵抗といった問題も浮かび上がっています。
いろいろな議論がある中で、培養肉の研究開発は急ピッチで進んでいます。どんな動きが出てくるのか、これからも注視していきたいですね。
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